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【お酒】84.85.八海山 普通酒&本醸造 飲み比べ≪本醸造の意味を究める≫ [15.新潟県の酒]

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八海醸造株式会社
新潟県南魚沼市長森1051


言わずと知れた八海山です。
日本がバブル経済で盛り上がっていた頃は、越乃寒梅や久保田などとともにもてはやされました。

新潟のお酒の味を“淡麗辛口”と表現することがよくあります。
これについて、ある文献では、「厳しい寒さの中、ミネラル分の少ない軟水で仕込まれる新潟の酒はゆっくりと、穏やかに発酵が進むため、さっぱりとした味わいになる。」と説明しています。
また、「昭和32年に誕生した酒造好適米「五百万石」の登場で、やわらかい含みと雑味のないすっきりさが際立ち、またキレのあるきれいで品格のある飲み口の酒が出来上がった。」ことも、淡麗辛口になったことの一因であると紹介しています(※1)。

そんな新潟の淡麗辛口を代表するお酒と言っても過言ではないくらい有名な八海山から、今日は普通酒と本醸造とを飲み比べてみたいと思います。


その前に、本醸造とはいったいどういうお酒なのかということを確認しておく必要があります。

本醸造とは「精米歩合70%以下の白米、米こうじ、醸造アルコール及び水を原料として製造した清酒で、香味及び色沢が良好なもの」と定義されています(※2)。
つまり、本醸造を名乗るのであれば、上記のもの以外の副原料(糖類・酸味料など)を使うことはできないのです。

また、本醸造にはこの定義以外にも、以下のような制約があります(※3)。
★農産物検査法により格付けされた3等米以上の米を使うこと
(→くず米を使うことができない。)
麹米を白米全体の15%以上使用すること
(→麹を使わずに糖化酵素を投入するやり方をとることができない。)
(→麹米を減らした仕込方法(液化仕込など)を採用することができない?)
アルコールの添加量が、白米重量の10%以下であること
(→アルコールを増量目的で添加することができない。)

本醸造を名乗るお酒は、これらの制約を遵守することによって、アルコール添加はしているものの一応ちゃんとした製法で造ったお酒ですよということを消費者にアピールしているのだと思います。
逆に、これらの制約をひとつでも守れないお酒は、普通酒に分類されることになります。


☆★☆★【2017/02/26追記】☆★☆★

この「アルコール添加はしているものの一応ちゃんとした製法で造ったお酒ですよということを消費者にアピールしている」ということを裏付けると思われる記述を、文献から見つけ出しました。

 「本造り黄桜」の発売は昭和四六年であった。製造方法に革新の意気が込められていた。いま(平成一三年)の常識で考えればだれても気づくであろうが、それに気づかぬ世界から見れば大革新であった。  それは、いまでいう「糖類無添加」である。純米づくりの仕込みにアルコールのみを添加した製品である。
(中略)
 黄桜酒造が所属していた中堅酒蔵グループ「伸進会」(昭和四二年六月八日発足、代表竹内昭二・坂倉又吉、課税移出六〇〇~六〇〇〇キロリットルの中堅メーカーグループ一八六社)は、この「黄桜」の行き方を取り上げ、会のなかに別に全国本醸造協会(昭和五〇年四月一日発足、代表幹事高橋篤、一〇六社)を組織して、「本造り」規格をさらに品質向上させてアルコール添加量を「一二〇リットル/白米トン」とし、これを「本醸造」規格とした。
 この本醸造規格は、清酒業界全体へ、さらに酒税法にまで広がっていく。
 昭和五〇年の日本酒造組合中央会の「原材料と製造方法の自主基準」のなかの「本醸造酒」規格に引き継がれ、平成元年の酒税法による「特定名称」のなかの「本醸造酒」規格へ進んでいった。」(※4)

☆★☆★【2018/10/20追記】☆★☆★

では、どうしてこの「本造り黄桜」は“アル添廃止=純米化”への舵を切らなかったのでしょうか?
原理的に突き詰めれば、戦前の清酒造りへの回帰=純米化こそが本来の酒造り、すなわち「本造り」のはずですよね。

これについて、当時の黄桜酒造さんのご当主による講演の記録に、以下のような記述がありました。

 次に,品質上では,消費者団体が,無添加酒などをはっきりと表示するよう要求しています。アルコール無添加酒については,これを大量に生産して,清酒の主流になるということはないと思います。もちろん,品質の向上,あるいは一部愛飲家の要望に答えるために,或程度生産することは必要で,私もやっております。しかし,あまりこれにこだわると,清酒全体のためにはむしろマイナスになることも考えられます。ご承知の通り,現在の嗜好に合う無添加酒を造ろうと思えば,50%以下の精米歩合で,非常な吟醸造りをしなければなりません。
 したがいまして,無添加ではない適量のアルコール添加を,業界としては一番取り上げざるを得ないのではないかと考えております。清酒の品質についてのあるべき姿は,大量のアルコール添加と,これに伴う糖類使用からの脱皮で,これが清酒の主流を占めるべきだと考えております。
 最近,中央会の各委員会では,品質とか,表示に関して,色々の答申が出ております。(中略)表示委員会でも,中間段階でありますが,無添加酒は純米醸造,アル添だけの酒は本醸造とするという意見が出ています。
 問題となるのは,3倍増醸の扱いで,これは次第に廃止の方向に進むべきだという意見と,コストの点もあり,品質も必ずしも低下しなという現状維持の意見にわかれております。私は,3倍増醸には,戦後の飛躍的な需要増加の要求に応じたことと,コストを低く保つことが出来た点でメリットがあったことを認めます。しかし,清酒の品質が3倍増醸によって香味のバランスを崩している点と,真の意味の旨味をかいていることは,どうしても認めざるを得ません。
 今後の清酒の需要促進,特に,上級酒の需要促進のためには,適量アル添の本格製品が清酒主流となるよう,皆様方の格別の御努力を切望するものであります。やや,細部にわたって申し上げると,仮に本醸造という名称としますと,糖類は使用しない,アルコール添加量は白米1t当り150lとする。また精米歩合は70%以下として上級清酒の品質向上をはかることが急務ではないでしょうか。販売面での価格競争から,品質競争に移ることによって消費者の信用を得るよう努力することが必要です。」(※5)

要するに、“純米酒へ回帰することだけでは、消費者の嗜好に答えることができない”とのご判断から、まずは糖類添加を廃止つつアルコールの添加量を制限した本醸造の規格が必要であるとお考えになられたわけですね。
これはすなわち、アル添を単なる増量策とみなすことなく、その積極的な側面に着目して酒造りの“技法”の一つとして認めていらっしゃるのではないかと推察いたします。

これはね、あたしゃ21世紀の今日においても当てはまることだと思いますよ。
だって、世に出ている純米酒のなかには、ものすごく重かったり、あるいは味わいに角が出ていて飲みにくい(と私が感じる)ものが少なからずありますからね。
また大手蔵のお酒でさえも、本醸造だったものを無理やり純米化したことで酸っぱくなったり、あるいはキレが悪くなってしまった(と私が感じる)ものもありますしね。

大事なことは、「アル添だからダメ=純米しか認めない」という先入観を持つのではなくて、一つひとつのお酒を実際に飲んでみて“おいしい/まずい”と判断し、かつその際にどうして“おいしい/まずい”と感じたのかを自分なりによく考えて、その結論を導いた要素の一つとしてアル添の有無の効果を考慮してみることではないでしょうか。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



それでは、いただきます。

八海山 普通酒
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原材料名  米(国産)・米麹(国産米)・醸造アルコール
アルコール分15.5度
180ml詰


まずは、冷や(常温)でいただいてみます。

ハァ?
なんだこりゃ!
味もそっけもないじゃないの!!。

うまみも酸味も、感じることができません。
ただのアルコール水溶液といった感じです。
これが新潟の淡麗辛口なのでしょうか。


これでは物足りないので、ここでぬる燗にしてみます。

少し酸味が出てきました。
やわらかい、スッキリした酸味です。

うまみや甘みは、やっぱりわかりません。
それでも、全神経を舌に集中させていただくと、ほんのわずかに感じます。

その一方で、このお酒、燗にしてもまったく雑味が出ません。
これはやはりていねいに造ってある証しなのかもしれません。


やわらかい酸味は感じるものの、雑味のない、淡麗薄口のお酒でした。
お刺身のような繊細な味の料理には合うかもしれません。


八海山 本醸造
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原材料名  米(国産)・米麹(国産米)・醸造アルコール
アルコール分15.5度
精米歩合55%
300ml詰


これもまずは冷や(常温)でいただきます。

これもやはり、うまみも酸味も、それにアルコールの香りも感じることができません。
ただ、かすかに甘みだけは感じることができます。


やはりここでぬる燗にしてみます。

私には、普通酒とのちがいを理解することができません。
やわらかい酸味はするものの、うまみや甘みはよくわかりません。
冷やで感じた甘みは、どこかへ飛んでしまったようです。
しかし、やはり普通酒と同じく、雑味のなさは優れています。


普通酒と同じく、やわらかい酸味は感じるものの、雑味のない、淡麗薄口のお酒でした。



これまでに、新潟のお酒をいくつかいただきましたが、八海山ほど味が薄いお酒は初めてでした。
その一方で、雑味はまったく感じませんでした。
その雑味のなさももまた、八海山のよいところなのかもしれません。

しかし、私にとっては、物足りないお酒でした。

★☆★【追記】☆★☆
本醸造を全部飲みきることができなかったので、しばらく置いてからいただきました。
するとどうでしょう、うまみが出てきたではありませんか。
けっこうしっかりしたうまみです。
こういうことは、かつて両関の冷用をいただいたときにも生じていました。


(※1)佐々木ゆみ子+恒文社編集部『八海山 魚沼 雪の中の酒蔵』p.56(2009.7 恒文社)
(※2)清酒の製法品質表示基準(平成元年国税庁告示第8号)1
(※3)同1(2)(3)(5)
(※4)篠田次郎『吟醸酒の光と影』p.107-108(2001.9 技報堂出版)
(※5)松本司朗『(2)黄桜酒造(株)(黄桜)京都府 松本司朗』p.7(醸造論文集 29巻 第16回醸友会シンポジウム 『2 清酒のあるべき姿について』p.3-11中 1974.4 日本醸友会)
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あ~酒臭かった! 26

酒くさコメント 12

hypo

詮を開けてから味が変わってくるのも日本酒の楽しみの一つですね!
by hypo (2013-12-01 06:41) 

hanamura

最近の私は新潟の酒は「景虎」です。
他のお客さんの評判も良いですね。
by hanamura (2013-12-01 07:08) 

ちゅんちゅんちゅん

こんにちは!
先日 八海山いただきました。
冷やで・・・
スッキリ~♪と感動しましたが
次回は是非 ぬる燗で・・・と決めました(^^)
by ちゅんちゅんちゅん (2013-12-01 10:12) 

skekhtehuacso

hypoさん、コメントありがとうございます。
ほんの2,3時間のあいだに味が変わるのですよ。
面白いものです。
by skekhtehuacso (2013-12-01 21:20) 

skekhtehuacso

hanamuraさん、コメントありがとうございます。
実は、すでに景虎の龍を入手してあるのです。
近いうちにいただきます。
by skekhtehuacso (2013-12-01 21:22) 

skekhtehuacso

ちゅんちゅんちゅんさん、コメントありがとうございます。
私は、今度いただくときは、冷やで、栓を開けてしばらくおいてからいただいてみようと思っています。
by skekhtehuacso (2013-12-01 21:23) 

とんちゃん

しばらく置いたらうまみが出てきた、というのはすばらしい発見ですね。

by とんちゃん (2013-12-02 06:02) 

skekhtehuacso

とんちゃん様、コメントありがとうございます。
そうなんですよ。
2,3時間でうまみが出てくるので驚きました。
by skekhtehuacso (2013-12-02 22:34) 

お酒好き

八海山の旨さがわからないなら批評はやめたほうが良い。
なぜなら、一握りの旨味が分かる人間の批評なんて、大多数であるその一握り以外の人間には響かないから。
万人ウケして久しい八海山をわからない時点で少数意見でしかない。
味なんてそんなモン。
by お酒好き (2015-11-04 21:06) 

skekhtehuacso

酔っぱらっているせいか私には「なぜなら―」以下の意味がまったくわかりませんが、お酒好きさんはきっと、他の誰よりも八海山を愛し、八海山のことを知り尽くしていらっしゃるのでしょうね。
そんな御仁でしたら、願わくは、いろいろな人のお酒に対する多様な意見を受容し、尊重していただきたいものです。

ですがお酒好きさん、ご安心なされませ。
私のような酔っぱらいが何を書こうが、酒を愛する諸兄の嗜好には全く影響はないでしょうし、八海山の味が変わることも絶対にないでしょうから。
by skekhtehuacso (2015-11-04 23:07) 

エヌ

八海山の本醸造を飲んだのですが私には合わない。でも、どこでも誰でも大絶賛。
そんなときにこちらを拝見しました。
自分と同じ味覚の方がいらっしゃって安心しました。他のお酒も参考にさせていただきます。
記事を書いていただきありがとうございました。
by エヌ (2018-03-20 20:29) 

skekhtehuacso

エヌ様、味覚や味の好みには個人差があることでしょうから、お酒の味の評価も人ぞれぞれであって、正解はないと思います。
ただ、どうしてそう思ったか、その理由をお酒をいただく毎に考えてみれば、自分の好みの味わいがだんだんとわかってくるのではないでしょうか。

といっても私のブログは、書いている奴がかなりいい加減なので、あまり参考になさらないほうが無難かと思います。
むしろ、「またくだらないことを書いてやがる」と思って鼻でくすりと笑っていただければ幸甚です。

by skekhtehuacso (2018-03-20 22:42) 

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