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《焼酎》6.黒霧島 200ml【追記あり】 [9945.宮崎県の焼酎]

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霧島酒造株式会社
宮崎県都城市下川東四丁目28番1号

原材料/さつまいも、米こうじ(国産米)
アルコール分/25%
内容量/200ml
南九州産さつまいも100%使用
(以上、ラベルより転記)




昨日の白霧島に引き続き、今日も霧島酒造さんの芋焼酎をいただきます。
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今日いただくこの黒霧島もいも焼酎ですが、こちらには黒麹菌が使用されているのだとか。
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一方、昨日いただいた白霧島で使用されていた麹菌は、白麹菌でした。
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どうやらこの黒麹菌と白麹菌とは、もともとは同一種だったそうです。
当初は黒麹菌が普及したものの、その中から白色の変異株が見つかって、それを培養した白麹菌が戦後になってから広く使われるようになったのだとか(後掲(※6))。

黒麹菌が使われるようになる前は、焼酎の製麹でも清酒と同じ黄麹菌が使われていたそうです。
しかし、黄麹菌は酸を出さないことから、酵母の増殖には乳酸菌が出す乳酸の力を別途借りる必要があり(酵母は酸に強いものの、雑菌は酸に弱いことから、酸性下では酵母だけが育つのです。)、しかもその酵母の増殖は腐造防止のために低温下でなされる必要があることから、温暖な南九州の気候には合わなかったそうです。

一方、「黄麹菌はクエン酸をほとんど生産しない。黒麹菌と白麹菌はクエン酸を生産し、製麹後半に温度を35℃に下げることでクエン酸の生産を促進することは明らかであるが、その機構は未だ解明されていない。クエン酸の重要性として、本格焼酎の製造は主に南九州や沖縄といった温暖な地域で行なわれるため、もろみが生酸菌などの雑菌に汚染される危険性が高く、汚染すると焼酎の品質やアルコール収得量の低下を引き起こす。しかし、麹に含まれるクエン酸が一次もろみのpHを3.0~3.5に低下させるため、雑菌の増殖が抑制できる。そして耐酸性に優れた焼酎酵母が優先的に増殖し、もろみが腐造することなく発酵が行われる。クエン酸は不揮発性の有機酸であり蒸留しても焼酎には含まれないため、焼酎は酸っぱくならない。」(※1)のだとか。

しかもこの場合、「焼酎もろみは高温(三〇度前後)経過で、しかも長期に発酵させても安全にもろみができる。」(※2)のであって、その理由は上述のとおり「白(黒)麹に生成されるクエン酸がもろみを酸性にしてくれるのでもろみが腐らないのである。」(※2)とのこと。

黒麹菌(と白麹菌と)を用いた醸造は、南九州の温暖な風土に合っていたのですね。



この黒麹菌は、もともとは沖縄で泡盛の仕込みに使用されていたとのこと。
それが大正中期に、まず鹿児島県で焼酎造りに導入され、その後全国へ広がっていったそうです。

このことについては、以下のような記述がありました。
黒麴菌の鹿児島への導入は明治40年頃、鹿児島の泡盛製造に用いたのが最初で、甘藷焼酎には翌年使用されている。」(※3)
その後、明治40年の沖縄泡盛の指導調査にあたった河内源一郎が明治43年に鹿児島税務監督局技師として赴任し、黒麴による甘藷焼酎製造の指導にあたるが、
(中略)
大正2年に泡盛麴菌が酸を夥しく生産することが発表され、大正3年には小試験の結果、垂れ歩合良好で香味もよいということで黒麴菌の試醸が推奨されているので、この頃から甘藷焼酎への使用が急速に普及したものと考えられる。」(※3)

その後、「球磨の米焼酎では昭和15年まで黄麴仕込みでその後黒麴に代わるが、昭和25年でも27%は黄麴を使っていた。壱岐の麦焼酎でも黒麴に代わったのは昭和17年のことである。球磨も壱岐も鹿児島の甘藷焼酎の二次仕込法の導入と同時に黒麴菌の使用が始まっている。」(※3)という記述にあるとおり、黒麹菌は鹿児島の芋焼酎のみならず、熊本の球磨焼酎や長崎の壱岐焼酎(麦焼酎)でも使われるようになったとのことでした。



ですが、この黒麹菌には問題もあったようです。

それは、「しかし黒麹菌は、その名の通り胞子が黒い。この胞子が飛び散って、酒造りの器具や蔵人の衣服などが汚れるという、そんなデメリットがあった。」(※4)のだとか。
またこのことについて別の文献には、「ただ、困ったのはその胞子の黒さである。黒麹というだけあって、見事に真っ黒の米麹ができあがる。室に入っていた破精蓋から黒麹をとり出すと、服はもちろん、鼻から口まで真っ黒になり大変なことになった。外に干していた洗濯物にも付着して汚れた。身内や蔵人はまだしも、困ったのは近所からの苦情だった。そのころ壱岐では味噌、醤油は各家庭で手造りしており、その味噌が黒くなるというのだ。麹菌の胞子は目に見えない大きさだ。黒麹がその原因と分かっていても、どうすることもできなかった。」(※5)という記述すらありました。


その後、黒麹菌の中から色が白い変異株である白麹菌が発見され、戦後になってからそれが普及したことから、黒麹菌を使う蔵は減少したそうです。
このことについて、以下の記述を見つけました。
 その後、沖縄の黒麹菌の中から性質はほぼ同じで色の黒くない菌株が発見され、発見者の河内源一郎の名にちなんで、アスペルギルス・カワチと命名されました。それまで、原料全部が麹である泡盛に比べていも焼酎では麹の割合が少ないために、より麹をすすませて酵素力を高めた麹を使う必要がありました。そのために黒麹の胞子の飛散による作業性の悪さが問題となっていたのです。
 この白麹菌の登場により、黒麹から白麹への転換が急速に進んでいきました。昭和二五年度の熊本国税局管内(鹿児島、宮崎、熊本、大分)では、黒麹七四%、白麹一六%、黄麹一〇%だったものが、昭和四五年度には黒麹、黄麹ともにほとんど使用されなくなり、ほぼ白麹一〇〇%になっています。」(※6)



そんな取り扱いの難しい黒麹菌でしたが、最近ではその味わいが再評価されて、「銘柄に黒が付いた焼酎(例えば、黒〇〇)は黒麹を使ったものであり濃醇なタイプ白麹製は端麗ですっきりしたタイプといわれている。」(※7)と評されているようです。

なぜ、黒麹のほうが濃醇な味わいになるのでしょうか?

その理由として、以下のような記述に出会いました。
 麹菌は澱粉や蛋白質、脂質などを分解する酵素の他に、芋焼酎の風味形成に不可欠なβ-グルコシダーゼを生産する。この酵素は、サツマイモに含まれるモノテルペン配糖体を発酵中に加水分解し、柑橘の香り成分であるゲラニオール、ネロール、リナロール、α-テルピネオール、シトロネロールなどのモノテルペンアルコール(MTA)の生成に寄与している。MTAは芋焼酎特有の成分で“癒し”効果のある香りといわれている。
(中略)
また、黒麹菌のβ-グルコシダーゼ活性は白麹菌の約3倍高い。黒麹製の芋焼酎はMTAの濃度が白麹製と比べて1.5倍高いため、黒麹製の焼酎がより個性的であるといわれる要因といわれている。」(※8)

 種類の異なる麴について、β-グルコシダーゼ活性を測定したところ、甘藷焼酎の製造に一般的に使用されている河内菌の白麴に比較的強い活性があり、クエン酸を生産させるために通常行われている後半の温度を低くする(35℃)経過で活性が強いこと、製麴の終盤に急激に活性が強くなることが明らかになった。また、沖縄の泡盛の製造に用いられる黒麴は白麴より活性が強く、清酒の製造に用いられる黄麴は白麴より活性が弱かった。品質の多様化をねらって、黒麴を用いると香味の強いものが、黄麴を用いると香味の穏やかなものができる傾向があるが、これらの現象と麴中のβ-グルコシダーゼ活性の強さはよく符合する。」(※9)

最近では黒麹を使用する蔵元さんが増えているみたいですが、これは上記(※9)に「品質の多様化をねらって」とあるとおり、黒麹仕込の濃醇な味わい・強い香味を求めてのことなのでしょうね。

また、これはわたしの予想ですが、近年ではかつてよりも麹の管理が徹底していて、飛散防止のための対策が採られていることから、麹菌の飛散による影響を考慮する必要がないのかもしれませんね。
あるいは、黒麹菌自体の品種が改良されて、飛散しにくい黒麹菌が作り出されているのでしょうか?
すみません、これらについては調べが及びませんでした。

【2017/10/21追記】 その後、明治後期に導入された黒麹菌と現代のそれとは、同じ黒麹菌でも別物であるということを紹介している文献の記述に出会いました。
 今、また黒麴が注目されている。しかし、この黒麴は昔の黒麴菌の復活ではなく、種麴も違う新しいタイプなのだそうだ。
 「昔の黒麴は野生味があって辛口なんですよ。それで嫌われた。しかし、人間は贅沢ですから、今このように白麴一色になってしまうとなにか変化がほしいと言い出す。創造性に富む醸造場ならそう考えるのは当然です。それならと、うちでテスト中の菌があるから使ってみますかと言ったのが、黒麴ということになって広まったんです。ですから今の黒麴菌は、わたしの造った新しいタイプで、復活ではありません。」」(※10)

【2017/11/04追記】
さらにその後、この新しいタイプの黒麹菌は“黒麹菌NK(ニュークロ)”という名称であることがわかりました。
このことについて、文献では以下のように紹介されておりました。
黒麹は野性味があって、麹が造りやすい。しかし焼酎が辛くなるのです。だから昔の黒麹はすたれてしまったのです。甘味があって辛味の出ない黒麹を造ろうと、そして菌種を分離・選択して完成したのが、黒麹菌NKです。ニュークロといいます」」(※11)
この黒麹菌NKを使って造られたのが、霧島酒造が1998年に発売した「黒霧島」であった。」(※12)


とまあ、以上が文献調査でわかった内容でした。
では実際に黒麹菌を用いて造られた芋焼酎をいただいて、その味わいを確認してみることにいたしますよ。



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まずは、生(き)、すなわちストレートで。
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白霧島とおなじく、臭みはまったくありませんね。

やはり香りがはっきりしていますが、こちはら香ばしい香りですね。
この香ばしさは、香りのみならずうまみにもなっていますね。
それに、酸味と甘味とを少し感じます。
アルコール香はあるものの、白霧島ほど気にはなりません。
でも、こちらはちょいピリでした。




次に、お湯割り(焼酎:お湯=6:4)にしてみましたよ。
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口をつける前から、香ばしい香りがフワッと漂ってまいりました。

香りもうまみも香ばしさがよりいっそうはっきりしてきて、味わいに厚みが出てきましたね。
酸味と甘みとは引っ込んだようです。
また、軽い苦味がちょっとだけ出てきたようでした。




最後は、残ったものをロックで。
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トロッとした口当たりに変わりましたよ。
それに、香ばしさと軽い苦味とが前に出てきて、これが一番香ばしいかもしれません。
特に、焼酎を喉に流したあとで、舌の付け根あたりに香ばしさが残ります。
酸味は残るものの、甘味はお湯割りと同様にひっこんで、かなりキリッとしてきましたよ。



香ばしくておいしい焼酎でした。
白霧島のような華やかな香りはありませんでした。
ですが、こっちのほうが香ばしさがあって、味わいに厚みを感じました。
中でも私としては、味わいの厚みを最も感じることができたお湯割りが好みでした。

白霧島は雑味がなくてきれいですっきりしていて、香り高い芋焼酎でした。
一方、黒霧島は香ばしさが豊かで厚みのある味わいでした。
私としては、軽い苦味が少しあるものの、黒霧島のどっしりした風味のほうが好みですわ。



(※1)髙峯和則『焼酎と微生物』p.293-294(モダンメディア 61巻10号 p.290-297 栄研化学 2015)
(※2)鹿児島県本格焼酎技術研究会『かごしま文庫(62) 鹿児島の本格焼酎』p.33(2000.6 春苑堂出版)
(※3)鮫島吉廣『本格焼酎製造方法の成立過程に関する考察(その2)』p.829(日本醸造協会誌 84巻12号 1989.12)
(※4)白川湧『本格焼酎をまるごと楽しむ』p.61(2007.6 新風舎)
(※5)山内賢明『壱岐焼酎 蔵元が語る麦焼酎文化私論』p.99(2007.11 長崎新聞新書)
(※6)金羊社発行『焼酎楽園 Vol.4』p.39〔鮫島吉廣『焼酎を科学する4 黄麹菌から黒麹菌へ、そして白麹菌』( p.38-39)内〕(2000年12月 星雲社)
(※7)髙峯和則『芋焼酎の香りの正体を求めて』p.23(New Food Industry 55巻12号 p.22-30 食品資材研究会 2013.12)
(※8)(※1)p.294
(※9)太田剛雄・下條寛和・橋本憲治・近藤洋大・佐無田隆・大場俊輝『白麴のβ-グルコシダーゼ活性と甘藷焼酎香気への寄与』p.538(日本醸造協会誌 86巻7号 p.536-539 1991)
(※10)大本幸子『いも焼酎の人びと』p.73-74(山元正明氏(㈱河内源一郎商店代表取締役)インタビュー記事より 2001.10 世界文化社)
(※11)立山雅夫『やっぱり芋焼酎』p.99(山元正明氏インタビュー記事より)(2005.2 同友館)
(※12)(※11)p.100
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