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【お酒】72.剣菱 300ml【補足あり】 [28.兵庫県の酒]

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剣菱酒造株式会社
神戸市東灘区深江浜町53番地

原材料名:米(国産)、米麹(国産米)、醸造アルコール
アルコール分:16度
(以上、ラベルより転記)

灘五郷の一つ、御影郷にある蔵元のお酒です。

剣菱さんは、保守的な酒造りをしている会社として有名です。

ある雑誌の記事によれば、「「剣菱」における第一義は、この不変の味。材料、造り、道具、人のすべてがその一点に向かって決められ、そして完成されている。だから、「変わることなかれ」というよりも、正確には「変える必要がない」。」とのこと(※1)。

そのひとつの例として、剣菱さんでは「米を蒸す甑も、酒母を温めるための暖気樽も、木製の吉野杉。」を使用していると紹介されています(※2)。

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この写真は、剣菱さんの酒蔵の前で干されていた暖気樽(ダキダル:酒母の温度を少しずつ上げるために、樽の中にお湯を詰めて酒母の中へ入れる、湯たんぽのようなもの)を撮影したものです。
今日では、暖気樽は金属製のものがほとんどです。
木製の暖気樽を使っている蔵元は、剣菱くらいだと思います。

しかし、木製の道具を使い続けることは、実はとても大変なことなのです。
ある文献では「桶つくりの職人さんが蔵人の入蔵前にタガの締め直しをおこない、入蔵後も一月か二月居残り、蔵人と寝食をともにしながら、桶の修理や杉材を使った道具造りなどをするのが通例だった。」「桶そのものの寿命は手いれ次第で長く伸びた。五年に一度はタガをはずして、新しく作ったタガにはめ変えて締め直した。」と紹介されています(※3)。
すなわち、木製の道具を使い続けるということは、そのメンテナンスを、専門の技術を持った職人によって、かつ定期的に実施する必要を伴うのです。

今や、木製の桶や暖気樽を使っている酒蔵はめずらしいでしょうから、その専門技術を持った桶職人の数も昔と比べて激減していると思います。
では、どうやって剣菱さんは、専門技術を持った桶職人たちを確保しているのでしょうか。

この点について、上記雑誌では「「ならば、職人を社員として育てようと」まずはベテランの樽職人を迎え入れ、自社の若手を育ててもらう。誰も経験のない甑造りは外へ学びに行く。100年後の自分たちの味と職人の技術を守るには、たとえ何年かかったとしても、それが一番の早道だ。」と紹介しています(※4)。


一方で、剣菱さん以外の蔵元では、木製の道具を放棄して、金属製の道具や琺瑯びきのタンクなどを使うのが一般的です。
金属製や琺瑯びきの道具を使うことのメリットは、もちろん木製の道具に比べてメンテナンスの手間と費用とを減らせることにあると思います。

しかし、メリットはそれだけではないようです。
ある文献では「酒の品質は、「造り」もさることながら、貯蔵によっても大いに影響を受ける。それは貯蔵桶の「クセ」や管理、洗浄が原因になるのだった。桶の「クセ」とは、桶の原料である杉材からはじまり、ほとんどは手入れ、つまり洗浄による。ときには使い込まれた年数にも関係がある。」「どんなに努力をしても勉強をしてみても、桶の「クセ」を完全に克服することはできない。」と記しています(※5)。

すなわち、木製桶ではなくて金属製や琺瑯びきのタンクを使うことで、桶のクセによる酒質への影響をなくし、つねに同じ品質のお酒を造ることができるというメリットがあるというのです。

はたして、年間3万5000石(630万リットル)のお酒を製造する大手蔵である剣菱さんは、木製の道具を使い続けることによる酒質への影響を、いったいどうやって克服しているのでしょうか。興味深いところです。



では、その変えない造りにこだわったお酒を、今日もぬる燗でいただきます。


一口含んだだけで、うまみと酸味とがグッと迫ってきます。

うまみはとてもコクがあって、深いうまみです。
醸し出された、酒臭い(←褒め言葉です)うまみです。
また、このうまみには、香りもあるようです。
空気と一緒にお酒をすすって、鼻から空気を抜くと、酒臭い(←あくまでも褒め言葉です)香りが鼻からスーッっと抜けていきます。

酸味ははっきりしていますが、決して刺激や辛味はありません。
例えれば、ヨーグルトの酸っぱさをやわらかくしたような酸味です。
剣菱さんでは山廃酛を採り入れているとのことですので、この酸味は、酒母を造った過程で生じた乳酸によるものではないかと思います。

甘みは直接は感じません。
しかし、深いうまみとはっきりした酸味とがとても際立っているのは、甘みがそれらを影から支えて持ち上げているからであるような気がします。


深いうまみとはっきりした酸味とで仕上げられた、濃醇やや辛口のとてもおいしいお酒でした。
決して万人受けする、トレンディーな(←古っ!)味ではありません。
しかし、私は、こういう酒臭いお酒が大好きです。


(※1)dancyu 2013年3月号 p.25(プレジデント社)
(※2)同 p.26
(※3)小山織『酒蔵の四季 東京・小山酒造の暮らし』p.98-100(1996.10 東京書籍)
(※4)上記※1 p.27
(※5)篠田次郎『吟醸酒の来た道』p.140-141(1999.1 中公文庫)


★☆【補足】★☆
最近開設されたばかりの剣菱酒造さんのWebsiteをチェックしていたところ、酒母造りやもろみの仕込みに際しては、「味という点において特に優位性がないため、木桶よりも腐敗を防止する能力が高いホーロー製のタンクを採用した。」という記述がありました。 それ故、木桶を使うことによる酒質への影響をどう克服しているのかという点については、解決しました。


2019/09/01
また飲んでみました。

2022/03/13
三たび飲んでみました。
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酒くさコメント 6

ma2ma2

剣菱
子供の頃にお酒のキャップ集めていたのですが、剣菱は人気がありました(^^)
by ma2ma2 (2013-11-17 22:18) 

skekhtehuacso

ma2ma2さん、こめんとありがとうございます。
こどもの頃って、そういうことやりますよね。

by skekhtehuacso (2013-11-17 22:27) 

丹醸

おはようございます

剣菱いつの間にか3デシ壜も発売していたんですね。

ラベルも少し変わって横文字で書かれていますね。

輸出も視野に入れた承認なんでしょうかね。

私も久々に剣菱が飲みたくなりました。^^

そして2013年の灘酒研究会酒質審査委員会の灘酒プロジェクト「灘の生一本」の剣菱の酒がとても気になります。栃木では売ってないので、正月に帰省したら買いたいと思います。
by 丹醸 (2013-11-19 07:12) 

skekhtehuacso

恐れ多くも畏くも、丹醸様から拙ブログへコメントを賜りましたこと、恐悦至極に存じます。

剣菱も、味こそ変わりませんが、Websiteを立ち上げたりと、少しずつ変わっているようですね。

しかし、剣菱を輸出しても、外国の人たちにこの味がわかるでしょうか。もっとも、スコッチやアイリッシュを飲む人たちには受け入れられるかもしれません。

丹醸様のブログを拝読するほど、私のしていることはことごとく丹醸様の後追いに過ぎないように思います。
これからも、どうかよろしくお願い申し上げます。
by skekhtehuacso (2013-11-19 23:56) 

とんちゃん

剣菱というと銘柄名だけが先行しているように思っていましたけど、
決してそうではないんですね。勉強になりました。

by とんちゃん (2013-11-22 03:52) 

skekhtehuacso

とんちゃん様、コメントありがとうございます。
剣菱は特にこだわりが強い蔵だと思います。剣菱のお酒をいただけば、たしかにそうだとわかりますよ。
また、菊正宗や櫻正宗、白鷹、白鹿のように、灘の大手蔵には、安い酒も造っているけれどおいしいお酒もちゃんと造っていらっしゃる蔵元もあるようです。
by skekhtehuacso (2013-11-22 22:58) 

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