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【お酒】876.一人娘 本醸造 生貯蔵酒 アルミ缶 [08.茨城県の酒]

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株式会社山中酒造店
茨城県常総市新石下187

原材料名 米(国産)米こうじ(国産米)醸造アルコール
精米歩合 70%
アルコール分 18度以上19度未満
200ml詰
(以上、缶の印刷事項より転記)




このお酒は、本醸造の生貯蔵酒です。
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アルコール度数が18-19度ということは、原酒か、あるいは加水量が少なめなのでしょうか。
なお、いささかくどいようですが、本醸造についてはかつてこちらにて、そして生貯蔵酒についてはこちらで、それぞれ触れております。


ところで、山中酒造店さんは、どうやら“二段仕込”でお酒を造っていらっしゃるようです。

この“二段仕込”の意味を理解するためには、その前提として、一般的に採用されている“三段仕込”、そしてさらに日本のお酒ができる過程を押さえておく必要があります。



日本のお酒は、
Ⅰ:お米のでんぷんを糖に変えるという化学変化と、
Ⅱ:糖をアルコールに変えるという化学変化
とを経て出来上がります。
このうち、の変化を担うのが麹が出す糖化酵素で、の変化を担うのが酵母という微生物です。(この酵母を培養した液のことを“酒母”あるいは“酛(もと)”と言います。)

そして、日本のお酒は、もろみタンクの中で上記の化学変化を同時に進行させて発酵を進めていきます(これを“並行複発酵”といいます)。

このとき、もろみタンクの中へ、麹、酒母(酵母)、蒸米、そして水などの「大量の原料(蒸米、麹、水)を一度に添加して仕込むと、酒母中の酸度と酵母数が急激に低くなってしまう。そのため、酵母の増殖が追いつかず、雑菌に汚染される危険性が高い。そこで、一度に原料を加えず、何度かに分けて添加し、適度な酵母の増殖を図りながら仕込んでいく方法がとられる。」そうです。
そして、「一般には三回に分けて仕込むため「三段仕込み」と呼ばれる。」とのこと(※1)。


三段仕込は、酒造りの長い歴史の中で確立された一技法のようです。

これについて、「南北朝から室町時代初期にかけての酒造りの有り様を知ることができる」(※2)という『御酒之日記』には、天野山金剛寺(大阪府河内長野市)でかつて造られていた“天野酒”の製法について、「もろみを仕込む際にあらかじめ「元」(酒母のこと)を造り、さらに「初度」と「第二度」と二回に分けて仕込む二段仕込みになっている。」(※3)と記されているそうです。

一方、「中世末の僧坊で、今日の日本酒にかなり近い酒(諸白)が造られていたことが分かる。」(※2)という『多聞院日記』の酒造りについては、「今日の清酒造りと全く同じように、酒母を育成し、それに初添、仲添、留添の三段掛法で仕込まれている。この点、「御酒」(上記『御酒之日記』に出てくるお酒のこと:ブログ筆者追記)「天野酒」よりはるかに進歩した方法である。」(※4)と、手元の文献で紹介されておりました。

ということは、今日において広く採用されている三段仕込は、歴史的には二段仕込の発展形態であって、最終的に三段に分けて仕込むことが酒造りにおいて最も適切であると判断された結果であり、かつ「酵母の増殖やもろみの温度管理をやりやすくするための知恵」(※5)ということができると思います。


それにもかかわらず、今日いただくこのお酒の蔵元さんは、三段仕込ではなく二段仕込を採用しているのです。
これはいったい、どういうことなのでしょうか?

この点について、茨城のお酒を紹介している文献では、以下のように紹介しておりました。
以下、その記述の要点(と、このブログの筆者が判断した部分)だけを抜粋してご紹介します。

仕込み水には「硬水」が適しているというのが日本酒造りの常識。山中酒造(ママ)はこの常識を打ち破り、鬼怒川から取水した「軟水」を使い独自の二段仕込みから醸される辛口・淡麗の酒を生み出した。
もともと沼地などが多く干拓が盛んだったこの地で硬水を得るのはそれこそ困難。
山中酒造ではやっかいな軟水での酒造りを、常識破りの「二段仕込み」を採用することで安定醸造にこぎ着けた。
発酵力の弱い軟水の弱点を補うため、一段目の仕込み時に発酵力の強い酵母を大量に投入する。最初に発酵をおう盛にすることで通常の中仕込みを省略し、次の仕込みで酒造りは完了。これが二段仕込みだ。
「徐々に発酵を促す三段仕込みに比べ、急激に発酵させる二段仕込みは腐る危険性が大」(山中社長)だから。リスクが余りに大きいため二段仕込みは広まらなかった。
二段仕込みで醸された酒は、最初の仕込みで発酵を促すため、一様に辛口に出来上がる。そして、軟水の特性として柔らかに仕上がる。」(※6)

要するに、軟水を使用することで生じる発酵力の弱さを酒母の大量投入によって補うために、リスクを抱えつつも二段で仕込むことが最適だと判断なさったのですね。
(なお、酒造りと硬水/軟水との関係については、かつてこちらでまとめております。



大変お待たせいたしました。
そろそろいただいてみたいと思います。
生貯蔵酒ですので、冷蔵庫で冷やしたものをいただきます。

お酒の色は、わずかに着いているのがわかる程度でした。
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アルコール香がちょっと強いですね。
フレッシュな風味はひかえめでした。

うまみは濃くはないですね。
お米のうまみに、苦みもほんのかすかにあるみたいです。

酸味はややひかえめです。
すっぱさをちょっと感じますが、アルコール香に負けています。

甘みはひかえめです。
ほとんど感じません。


キリッと引き締まった、辛口のお酒でした。
甘みがほとんどなく、かなり辛口です。
アルコール香も、辛口の味わいを助長しているようです。
ドライな口当たりですが、薄っぺらくはないですね。

甘くないということは、発酵がよく進んでいるということでしょうね。
これはきっと、二段仕込みの成果でしょう。


(※1)小泉武夫監修『日本酒百味百題』p.136(2000.4 柴田書店)
(※2)(※1)p.213
(※3)(※3)p.26
(※4)坂口謹一郎監修・加藤辨三郎編『日本の酒の歴史』p.183(加藤百一執筆『日本の酒造りの歩み』p.41-315中 1977.8 研成社)
(※5)秋山裕一『日本酒』p.70(1994.4 岩波新書)
(※6)『茨城の酒と蔵』p.172-174(2002.10 茨城新聞社)
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あ~酒臭かった! 31

酒くさコメント 2

川鮎くん

茨城常総市の鬼怒川堤防決壊では、
間一髪、水害から難を逃れたみたいですね~!!
by 川鮎くん (2016-05-14 06:21) 

skekhtehuacso

川鮎くん様、おお!そうでしたか。
たしか近くの石下駅は水没しましたね。
今では熊本の地震のことばかりテレビで耳にしますが、ここだって大変だったんですよね。

かつて私が子供のころ、隣の小貝川が氾濫していましたよ。
鳥羽淡海の伝説は、こういう氾濫のことだったのでしょうか?
by skekhtehuacso (2016-05-14 21:22) 

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