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【お酒】616.北鹿 普通酒 300ml【追記あり】 [05.秋田県の酒]

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株式会社北鹿
秋田県大館市有浦二丁目2-3

アルコール分15度以上16度未満
原材料名 米(国産)・米こうじ(国産米)・醸造アルコール
300ml詰
(以上、ラベルより転記)




秋田県の大館駅周辺で酒集めをした際に入手した、大館の地酒です。

北鹿さんは「昭和十九年、政府の企業整備により北秋田郡、鹿角郡の二十一業者、八工場が合同して設立」されたという(※1)、いわゆる戦時統合で整備された蔵元さんのようです。
現在では、小山本家酒造(埼玉県さいたま市西区指扇)の傘下に入り、世界鷹小山家グループの一員として酒造りをなさっています。


品質表示から判断するに、このお酒は普通酒です。
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普通酒は、地元で消費されることを目的として造られているものと推察いたします。
大館では、このお酒が晩酌で広く飲まれているのかもしれませんね。


お酒ですが、ラベルに“秋田流生酛仕込”と書かれています。
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この秋田流生酛(秋田式生酛とも言うそうです。)は、もともとは太平山の小玉醸造さんが開発した酒母の製造方法で、「山卸しを始め、生酛の各操作の意義を微生物の生態学的見地から追及し、その育成の簡易、合理化をはかったもの」(※2)なのだとか。

簡単に言うと、「生酛の原法の様に物料を半切桶に分けず一本のタンクに仕込み、仕込温度を14~15℃とし、山卸操作を電動擂砕攪拌装置で行い、電熱による行火法で加温育成するもの」(※3)とのこと。
この意義については、この記事の末尾でまとめておきましたので、ご覧ください。


生酛造りのお酒の味わいに触れている文献の記述についてはかつてこちらで紹介しておりますが、要するに、生酛で育った酵母は力強いので、発酵がよく進み、その結果きれいな酒質になるのだとか。

果たして今日いただくこの秋田流生酛仕込のこのお酒は、理屈どおりきれいな酒質なのでしょうか。
それを確かめるべく、そろそろいただいてみたいと思います。
普通酒ですので、今日もぬる燗でいただきます。

お酒の色は、ほぼ無色透明ですね。
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うまみはやや淡めです。
酒臭さはひかえめで、むしろやわらかいうまみを感じました。
それに、苦みや雑味はほどんどありませんでした。

酸味はややはっきりしています。
すっぱさのみならず、少し深みを感じる酸味でした。
刺激やピリピリ感はありません。

甘みはわずかですが、その存在はわかります。
お酒の味にコクを添えているようです。


やわらかいうまみに、少し深みのある酸味の、やや淡麗でやや辛口のおいしいお酒でした。
上で紹介したとおり、たしかに雑味のないきれいな味わいでしたよ。
それに、酒臭さはないものの、酸味に深みがありました。
甘みもコクを添える程度にわずかで、食事とあわせやすいと思います。
さすが秋田流生酛造り、恐れ入りました。






★☆秋田流生酛(秋田式生酛)について★☆


(1)生酛とは:酒母(酵母の培養液)の造り方

生酛とは、“酒母”、すなわち酵母を培養した液体を造るための一手法です。
その内容については、かつてこちらでまとめております。

お酒を仕込む際、アルコール発酵を一気に進めるためには、糖をアルコールに変えてくれる酵母をあらかじめたくさん育てて準備しておく必要があります。
そのための方法として、乳酸菌の力を借りて酵母を培養するのが生酛です。


(2)伝統的な生酛造りとその手間

伝統的な生酛の手法は、以下のⅠⅡⅢの過程を要していました。

Ⅰ:でんぷんの糖化を促すために、“半切桶”という小さい桶の中に蒸米と麹とを入れて、数人がかりで櫂入れして摺りつぶす作業数回繰り返す。(これを“山卸”と言います。)
Ⅱ:山卸を終えたものを仕込タンクへ集約し、酵母を育成する。
Ⅲ:この作業は、悪玉乳酸菌や雑菌の増殖を抑えるために、6-8℃という低温の環境でなされる。

この山卸()と仕込タンクへの集約()とには多人数による労力を要し、かつそれを低温の過酷な状況下で)実施する必要があったのだとか。


(3)秋田流生酛(秋田式生酛):手間の省略

昭和の時代(おそらく戦後か?)になって開発された秋田流生酛(秋田式生酛)は、「生酛の原法の様に仕込の物料を半切にわけず、山廃酛の様に一本のタンクに仕込み一人の作業員が酛摺りを電動による電動撹拌擂砕機で行い物料を十分にすりつぶす」(※4)ことで、上記ⅠⅡの作業を省略化しているそうです。
このうち、電動撹拌擂砕機については、「ステンレスのシャフトにステンレスの短い羽根(先端にアクリル板をとりつけた)3枚を1組とし10組とりつけたもの」を「1000rpm以下の低速の木工用ドリルに装着し使用」する(※5)のだとか。

要するに、半切桶に分けて櫂入れ(山卸)をすることなく、大きなタンクの中に全量を入れて、電動ドリルでかきまわすということでしょう。


また、この方法で仕込むことで、「往年に比べ酒造の環境が菌学的に清潔に保たれ、酒造の微生物管理もよく行われるようになり」(※6)、かつ「雑菌の汚染源になり易い木暖気に代り、電熱によるアンカ法を採用している」(※6)ことから、酒母の仕込み温度を14-15℃まで上げることができたそうです(が改善されたわけです。)。


【2020/03/16追記】

半切桶に仕分けて櫂入れすることを省略した秋田流生酛。
“これって、結局のところ山廃酛と同じことなんじゃないの?”
私はそう思っておりました。

でも実は、秋田流生酛と山廃酛との間に決定的なちがいがあることに、とある雑誌の記事を読んで気づいたのです。
その記載を下記にて紹介いたします。

山廃酛は「生酛」で行なう蒸し米と麹をすり潰す“酛すり”の工程を廃止した方法なので、ほったらかしにして楽に造れると思いきや、そうではない。
「生酛は蒸し米と麹をすり潰して混ぜるので、濃糖状態になります。砂糖が保存料になるのと同じく、乳酸を生む乳酸菌が増える前に雑菌の繁殖を防ぐことができます。でも山廃酛はそれができず。乳酸菌が増える前に雑菌が繁殖することも多い。生酛よりも失敗するリスクが高いんです。」」(※7)

生酛は山卸の作業を経ることによって酛造りの初期から糖分の濃い状態を作り出すことができ、それが防腐効果をもたらすとのこと。
おそらく秋田流生酛も、ドリルで撹拌する作業を経ることで、伝統的な生酛造りの山卸と同じく濃糖状態を作り出すことができ、よって防腐効果も得られているのではないでしょうか。
というか、生酛造りが江戸時代から続いて来た理由の一つには、この防腐効果も影響していたのかもしれませんね。

(※1)秋田魁新報社事業局出版部編『あきた地酒の旅』p.16(1995.9 秋田魁新報社)
(※2)小玉健吉『秋田式生酛について』p.48(醸造論文集44号 日本醸友会 1989)
(※3)深味春輝『秋田の酒』p.9(醸造論文集43号 日本醸友会 1988)
(※4)(※2)p.54
(※5)(※2)p.57
(※6)小玉健吉『お答えします』p.222(日本醸造協会誌84巻4号 1989)
(※7)dancyu 2020年3月号 p.051(山内聖子『群馬泉 どっしりと構えた変わらぬ味に魅せられて』p.048-051中)プレジデント社
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あ~酒臭かった! 39

酒くさコメント 5

エクスプロイダー

北鹿は生もと純米の一升瓶で1,500円のがやまやに売っているから妙に侮れない。
by エクスプロイダー (2015-07-18 22:14) 

エクスプロイダー

間違えました。やまやじゃなくてヤマザワでした。暑気払いで酔っているなあ。
by エクスプロイダー (2015-07-18 23:03) 

skekhtehuacso

エクスプロイダーさん、北鹿のみならず、京姫や浜福鶴のように、特定名称酒を安価に提供してくれるのが、世界鷹小山家グループの得意とするところだと思います。
by skekhtehuacso (2015-07-18 23:30) 

caveruna

待ってました!
北鹿は、小学校の頃、
社会科見学に行きました!
私が通った中学校のすぐ近くです^ ^
by caveruna (2015-07-19 20:40) 

skekhtehuacso

caverunaさん、それは東中ですね。
道路を挟んで北側に小学校があって、南側に中学校がありました。
私がその道路を通ったとき、ちょうど中学校のチャイムが鳴っていました。

それにしても、社会見学で北鹿さんへ行くなんて、うらやましい。
きっと試飲し放題だったり、お土産に酒をもらったりしたんでしょうな。
(そんな訳ないだろ!)
by skekhtehuacso (2015-07-19 21:08) 

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