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9944.大分県の焼酎 ブログトップ
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《焼酎》28.いいちこ 日田全麹 225ml [9944.大分県の焼酎]

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三和酒類株式会社
大分県宇佐市山本2231-1

本格焼酎
原材料名 大麦麹
アルコール分 25度
225ml
(以上、ラベルより転記)




三和酒類さんのお酒や焼酎は、これまでに以下のものをいただいております。
本醸造 わかぼたん ぼたんカップ (2回目はこちら
いいちこ 25度 200ml
西の星 200ml
わかぼたん 福貴野 300ml

今日いただくこの大分麦焼酎は、原材料の全てが大麦麹という“全麹(ぜんぎく/ぜんきく)仕込”なのだとか。
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原材料名を見ても、表示されているのは“大麦麹”だけでした。
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全麹仕込について、いいちこを題材とした書籍では以下のように紹介されておりました。
一次仕込みはこの麹を使い、二次仕込みで麦を投入する。一次もろみでできている麹が麦を糖化しながら、発酵を強力に続ける。全麹づくりというのはこうして得られた麹だけを一次、二次と分けて使い、糖化の精度を上げることで発酵の効率をより上げる工夫である。」(※1)
全部麦麹にすることで糖化力が強くなり、麹由来のうま味も出てくる。」(※2)

ちょっとだけ補足させていただくと、通常は、焼酎のもろみは、
(1):水に麹と酵母とを合わせて、数日かけて糖化酵素と酵母とを増殖させて(一次仕込)、
(2):(1)に麦や米、芋などの主原料を添加して、1~2週間かけてアルコール発酵を促す(二次仕込
という手法で仕込まれるのだとか。
しかし、 今日いただくこの焼酎は、(1)にも(2)にも大麦に麹菌を植え付けた“大麦麹”だけを仕込む(大麦を主原料として使わない)のだそうです。
 
この全麹仕込は決して三和酒類さん独自の製法ではなく、沖縄の泡盛ではもろみの発酵力を高めるために古くから採用されていた手法なのだとか。
ただ泡盛の場合は「まずは、麹菌(黒麹菌)によって、タイ米から「一次醪」を造る。次いで、この一次醪をいきなり蒸留する。ほかの米焼酎や麦焼酎、芋焼酎、黒糖焼酎などとは異なって、「二次醪」を造らないのだ。これを「全麹(ぜんぎく)仕込み」という。」(※3)とあるとおり、二回に分けることなく一度で全量を仕込むとのこと。


そんな全麹仕込の焼酎ですが、三和酒類さんは、もともとはこの全麹仕込の焼酎を商品化するために開発したわけではなかったようです。
というのも、この全麹仕込の焼酎は、いいちこへの砂糖添加を中止して、砂糖の代わりに混ぜるために開発されたものであったのだとか。
このことについて、文献では以下のように紹介されておりました。

『いいちこ』の品質向上で語られるのが、いまは昔話になってしまった「砂糖事件」だ。ある時期までほとんどの麦焼酎には、原料の穀物以外に味を調整するために糖類(砂糖)を少し添加していた。飲みやすくするためにやっていたことだ。多くのメーカーはその事実を公表していなかったが、『いいちこ』はあえて品質保証のために、砂糖添加の事実を公開した。それは同時に砂糖添加に代わる技術を開発することを要請した。やはり自然の営みでできる本格焼酎にとって、糖類を使うことは邪道であったのだ。これを克服するために開発されたのが「全麹づくり」である。」(※4)

 多くの銘柄が失速する中、「いいちこ」の快進撃は止まりませんでした。八六年に乙類のトップに躍り出たことは既に触れましたね。乙類の主役が「芋」から「麦」に代わった象徴的な出来事として業界の話題をさらいました。同じ年の十月、消費者への説明責任を求める声を背景に、公正取引委員会が乙類について原材料の使用比率や添加物の表示を義務づけ、そのことが業界の様相を一転させました。砂糖添加問題です。
 このとき、大半の麦焼酎メーカーが隠し味に使っていた砂糖の添加を取りやめたのです。砂糖の添加はマイナスの印象ですから。しかし、わが社は糖添を続けることにしました。消費者が好む味を急には変えられません。このため「『いいちこ』を飲むと糖尿病になる」と、ずいぶん中傷されました。私がある酒販店に営業に赴くと、店主が「スプーン一杯の『いいちこ』をガスであぶると、黒く煤ける。これが砂糖」と買い物客に説明しているではありませんか。砂糖といっても、九百ミリリットル瓶に一・八グラム。微量にすぎません。「シングル90杯に、あえて1個の角砂糖」というポスターをつくり、健康には影響がないことを訴えました。
 幸い、味が変わって売れ行きの落ちた他銘柄を尻目に「いいちこ」はグッと伸びました。だが、砂糖添加はほっておけない課題。研究を重ね、大麦麹だけで仕込むことで、麦本来の甘みを引き出す「全麹造り」の開発に成功します。この原酒をブレンドし、砂糖添加と変わらぬ深い味わいを再現できたのでした。砂糖を外すときも社内で激論となりましたが、私も利き酒を繰り返し、味が変わらないことを確認してから、八九年六月に実行に移しました。
 全麹造りは他社の追随を恐れて数年間はトップシークレットでしたね。「いいちこ」は砂糖添加というアキレス腱を克服することで、さらに酒質に磨きをかけることができたのです。」(※5)

 全麹造りというのは、いわば必然でした。麦だけだと非常に軽くて、やわらかいタイプができるけど、深みがなかなか出ない。そこで、昭和六〇(一九八五)年くらいから、深みを出すために全麹造りを始めました。
 最初は、隠し味のような形で、レギュラーの「いいちこ」の中にブレンドしていたんです。六年ほど前(平成一〇年)に、はじめて全麹造り単独で商品化しました。「いいちこ フラスコボトル」です。」(※6)

麹の使用量が多ければ、その麹が出す多量の糖化酵素によってでんぷんの糖化が一気に進むものの、、酵母によるアルコール発酵が追いつかず、おそらく糖がもろみ中に残存するのでしょう。
それ故に、全麹仕込の“もろみ自体”は、きっと甘くなるのでしょうね。

しかし、焼酎の場合はもろみを蒸留することから、揮発性物質ではない糖はそのまま蒸留後のもろみ(かす)に残ってしまい、糖自体は焼酎の味わいに影響を及ぼすことはないと言えるのではないでしょうか?
ということは、砂糖添加に匹敵する全麹仕込のうまみは、麹が出す糖以外の揮発性・香気性の成分に起因するものなのでしょうか?

すみません。
この点について明確に記述していた文献には出会うことができませんでした。
そうと来たら、あとは実際に自分の舌で焼酎の味を確かめてみるしか、他に方策がないでしょう。


お待たせいたしました。
それではいただいてみたいと思います。

まずは生(き)、すなわちストレートで。
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いいちこらしい、きれいな口当たりです。
苦みや雑味はゼロですわ。
でも、ふわっとした香ばしさに深みがありますね。
甘みもしっかりしておりますよ。
強くはなくてべとつきませんが、けっこう深い甘みです。
一方、いいちこで感じたレモンを薄めたような酸味はありません。


次に、お湯割りで。
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お湯割りにすると、酸味が出てまいりましたよ。
かなり穏やかな酸味ですね。
それにじっくりと味わうと、さわやかさがあることもわかります。
ふわっとした香ばしさは若干薄まるようですが、むしろこっちのほうがふっくらとしてきましたよ。
甘みも少し薄まりますが、それでもしっかり残っております。
苦みや雑味はこれもゼロで、かなりきれいな味わいです。


最後は、残ったものをロックで。
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風味はこれは一番はっきりしています。
穏やかな香ばしい風味が鼻へ抜けていきます。
ふっくら感は引き締まりましたが、深みはしっかりと残っております。
酸味は引きましたが、深い甘みははっきりとわかりますよ。


きれいでスッキリしているものの、ふわっとした香ばしさに深みを感じるおいしい焼酎でした。
生(き)、お湯割り、それにロックと、それぞれに特長があって、どれもおいしくいただくことができましたよ。

これさ、かなりうまいんじゃないの!
繊細ではあるものの風味がしっかりしており、それに甘みがコクを添えていて、どっしりとした感じがありました。
このどっしりとした焼酎をいいちこに混ぜることで砂糖の添加を廃止したという話も、たしかに頷けるものでしたよ。
大手蔵ならではの精密な設計と技術とによって醸し出された、おいしい焼酎だと思いましたとさ。





今日は、この大分麦焼酎に合わせるために、大分の家庭料理を作ってみましたよ。

まずは、スーパーで安いお刺身を買ってまいりました。
本当は身がプリプリの白身がよかったのですが、鯛もブリもいささか高めでしたので、お手ごろだったびん長を選びましたよ。
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そして使うのは、大分の甘いしょうゆ。
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その甘いしょうゆにみりんと昆布だしを合わせて、漬けだれを作ります。
この漬けだれで、お刺身を和えるのです。
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和えたものを皿に盛り、ごまとネギをかければ、大分の家庭料理“りゅうきゅう”の完成です。
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全体を混ぜていただきますよ。
この甘めのりゅうきゅうがね、日田全麹のふわっとした香ばしさにとてもよくあいましたよ!
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(※1)平林千春『奇蹟のブランド「いいちこ」』p.147(2005.6 ダイヤモンド社)
(※2)(※1)p.140
(※3)白川湧『本格焼酎をまるごと楽しむ』p.50-51(2007.6 新風舎)
(※4)(※1)p.139
(※5)本山友彦『西太一郎聞書 グッド・スピリッツ 「いいちこ」と歩む』p.164-165(2006.10 西日本新聞社)
(※6)金羊社発行『焼酎楽園 Vol.15』p.40〔『三和酒類・熊埜御堂社長が語る「いいちこ」の味』( p.40-41)内〕(2004年11月 星雲社)




2021/09/11
また飲んでみました。

《焼酎》27.なしか! 20度 200ml [9944.大分県の焼酎]

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八鹿酒造株式会社
大分県玖珠郡九重町大字右田3364番地

本格焼酎
アルコール分:20度
容量:200ml
原料名:麦・麦麹
(以上、ラベルより転記)




八鹿酒造さんのお酒は、かつて八鹿(やつしか) 生貯蔵酒 300mlをいただいております。
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今日は、“なしか!”なる大分麦焼酎をいただきます。
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蔵元さんのWebsiteによれば、“なしか!”は、大分の言葉で“何故か!”という意味なのだとか。
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でも、“第3の麦”の意味はわかりませんでした。
というか、そもそも第1、第2も知らないけれどね。
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20度ですからね、全部飲んじまいましょう!

まずは生(き)、すなわちストレートでちょっとだけ。
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これはかなりさっぱりしているな。
まず、アルコールの香りが強めであることがわかります。
うまみは薄めで、穀物っぽいふっくらした風味をほんのりと感じる程度です。
軽い苦味が少しだけあって、それにピリッと感じます。


次に、お湯割で。
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これは風味が薄くなりましたよ。
ピリピリ感と苦味とは消えて、甘みと酸味とがちょっと出てくるようです。


最後は、ロックで。
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ふっくらした風味はこれが一番わかるようですが、それでも薄めです。
ピリピリや酸味は引っ込むみたいです。
一方で、軽い苦味と甘味とをほんのかすかに感じます。


かなりさっぱりした口当たりの焼酎でした。
私としては、弱めながらも風味がもっともはっきりしていたロックがおいしいと感じました。
これはあくまでも私の予想ですが、減圧蒸留で、しかもイオン交換処理バリバリといったところでしょうか?
味わいが甲類に近いかもしれませんが、それでもふっくらした風味はかすかではあるもののわかりました。

《焼酎》18.西の星 20度 200ml [9944.大分県の焼酎]

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三和酒類株式会社
大分県宇佐市山本2231-1

本格焼酎
原材料名 大麦・大麦麹
大分県産大麦『ニシノホシ』100%使用
アルコール分20度
内容量 200ml
(以上、ラベルより転記)




いいちこの蔵元さんが、大分県産の焼酎醸造好適大麦“ニシノホシ”を100%使用して造った大分麦焼酎なのだとか。
大分県で焼酎集め&酒集めをした際に入手した焼酎です。
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発売の意図については、文献に以下のような記述がありました。
 清酒の酒米「山田錦」のように、麦焼酎に適した大麦を国内で賄えないか―。
 二〇〇一(平成十三)年六月に発売した麦焼酎「西の星」は、そんな思いが形となった地産地消の酒です。地元・大分県宇佐市でとれた二条大麦「ニシノホシ」だけで仕上げました。」(※1)

あたしゃ知らなかったのですが、「当社で使用している原料大麦のほとんどはオーストラリアから輸入されています。」(※2)とあるとおり、いいちこの原料のほとんどは国産大麦ではなかったのです。
たしかに、いいちこのラベルには国産であることを示す文字は表示されておりませんでしたよ。
でも、「これは量的にも国産では対応できないから仕方ないことだ。」(※3)とのこと。
そう言えば、“大分麦焼酎”の名称は大分県酒造協同組合の地域団体商標として登録されておりますが、材料たる大麦の産地については制限がありませんね。

しかし、「 大きな期待を込めて売り出した「西の星」でしたが、全国展開後、わずか一年八カ月で大分県内のみの販売に後退を余儀なくされました。思うように売れなかったからです。」(※4)とあるように、この“西の星”は現時点では大分県内でしか入手できないのだそうです。
売れなかったから販売を止めてしまうのではなくて、地元で販売を継続しているということは、いずれ捲土重来を期すべく、再度の全国展開を狙っていらっしゃるのでしょうか。
それもきっと、蔵元さんがこの“西の星”の品質に絶対の自信をお持ちだからでしょう。

ところでこの「二条大麦「ニシノホシ」は「焼酎適性大麦」として初めて認識された品種」(※2)なのだそうです。
その“ニシノホシ”について調べた結果を、この記事の末尾(といってもそっちのほうがメインですが。)にまとめておきました。
もし興味がおありでしたら、お読みください。


それでは、いただいてみたいと思います。

まずは生(き)、すなわちストレートでちょっとだけ。
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20度ですが、やっぱりアルコール香がはっきりしていますね。
それに、ちょっとピリッと感じます。
そんな中でじっくり味わうと、穀物らしい穏やかでふっくらした香ばしさをふんわりと感じます。
また軽い苦味がちょっとはっきりしておりますね。
甘みも弱めながらにあるみたいです。


次は、ロックで。
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アルコール香とピリピリ感は引きましたね。
穏やかでふっくらした香ばしさがふんわりと広がります。
軽い苦味はありますが、生(き)よりも穏やかです。
いいちこで感じた酸味はないものの、さわやかさを少し感じます。
甘みはやはり弱めですが、その存在はわかります。


最後は、お湯割で。
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酸味が出てまいりましたよ。
さわやかさが豊かになって、すっぱさもちょっとだけわかるようです。
苦味はさらに引きますね。
一方で香ばしさはちょっと薄まって後退した感じがします。


ふっくらした香ばしさがふんわりのロックでも、さわやかさが豊かなお湯割りでもおいしい焼酎でした。
かなり穏やかな味わいに仕上がっていて、繊細な風味をじっくりと味わうための焼酎だと感じましたよ。
私としては、もしこのニシノホシで造られた常圧蒸留の焼酎があれば、ぜひとも試してみたいところでした。




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ニシノホシについてわかったこと


1.ニシノホシの焼酎醸造適性が認められるまでの経緯

このニシノホシは、元々は食糧用二条大麦として、農林水産省九州農業試験場で「西海皮54号」として育成された品種だったのだとか。
このことについて、九州農業試験場の報告では以下のように紹介されておりました。
 大麦は小麦より熟期が早く、水稲との作業競合が少ないため、二毛作体系の基幹作物として水田営農上重要な役割を占める。九州地域では、食糧用二条大麦の主力品種として、大麦縞萎縮病・うどんこ病に抵抗性で安定した収量性を持つ「ニシノチカラ」が栽培されているが、本品種は搗精時間がやや長く、産地による精麦品質の変動が大きいことが指摘されている。このため、「ニシノチカラ」並の栽培特性を持ち、精麦品質が改善された新品種開発への要望が強かった。
 「ニシノホシ」は、「ニシノチカラ」に比べて成熟期がやや早く、多収で精麦品質も優れることから、「ニシノチカラ」に替わって九州各県での普及が期待される。」(※5)

この大麦は九州農業試験場で育成されたのち、「1994年度から「西海皮54号」の系統名を付し、各県における奨励品種決定調査の供試材料として配布した。その結果、成績が良好であったので、福岡県、長崎県、大分県で普及に移されることになり、1997年12月に「ニシノホシ」(二条大麦農林18号)として命名登録された。」(※5)とこと。


この頃、配布を受けた大分県では、ちょうど焼酎の醸造に適した大麦を選ぶ研究をし始めていたところだったそうで、この配布をうけた西海皮54号が最適であることがわかり、県の奨励品種として採用したそうです。
このことについて、文献では以下のように紹介されておりました。
県農業技術センターが主査となって、焼酎醸造適性の優れた品種の選定を目的とした異分野との共同研究(課題名「焼酎及び味噌原料用大麦の高品質生産技術」)を1995年度から開始した。研究は、大麦の栽培試験と試料の生産を県農業技術センター水田利用部が担当し、精麦と醸造関連試験を県本格焼酎技術研究会の構成会員である三和酒類(株)研究所と県産業科学技術センター食品工業部が担当して行った。その結果、農林水産省九州農業試験場から配布を受けた'西海皮54号(ニシノホシ)’が、焼酎醸造適性に優れた早生良質品種であることが明らかになり、1998年8月に県の奨励品種に採用された。」(※6)


2.どのように優れているのか?

(1)一般的特性

内容が上記と重複しますが、栽培に関しては「並性の二条皮麦で、「ニシノチカラ」に比べると出穂期・成熟期とも1日ないし2日早い。播性の程度はⅠで、茎立性はやや早い。稈長は「ニシノチカラ」より8cm程度短く、稈は細い。耐倒伏性は「ニシノチカラ」と同様に強い。成熟期には穂が下垂する。穂数が多く、安定して多収である。」(※7)とともに、「大麦縞萎縮病とうどんこ病に抵抗性で」(※7)あるそうです。
早生で倒れにくく、たくさん採れて病気に強いということですね。

(2)焼酎用大麦としての特性

焼酎用大麦の品質は、その製造工程上、精麦特性と醸造特性を評価することが必要である。」(※8)そうです。
これは清酒の酒米にもあてはまることですね。
目からウロコの発見でした。

精麦特性については、「精麦工場のでの作業効率を上げるためには、搗精時間が短く、歩留まりが多いことが望まれる。」(※9)そうですが、「’ニシノホシ'の搗精に要する時間は'ニシノチカラ’より短く、穀粒は軟質である。また、'ニシノホシ’の欠損粒歩合は'ニシノチカラ’より低いので、歩留まりがよいものと思われる。」(※9)とのことでした。

一方、醸造特性については、いささか長めの引用になりますが、以下のとおりでした。
 70%搗精麦の一般成分は第10表に示したとおり、'ニシノホシ’は'ニシノチカラ’より粗蛋白、粗脂肪がやや少なく、糖質が相対的に多かった。一般成分と焼酎醸造適性との関係については不明な点が多いが、粗蛋白や粗脂肪等の夾雑物が少ないことは、焼酎醸造に対し、プラスに働くものと考えられた。
 70%搗精麦の吸水性試験の結果を第11表に示した。'ニシノホシ’の吸水速度は、'ニシノチカラ’と比べて、同程度~やや遅い傾向にあった。一般に原料搗精麦の処理時の吸水は35%程度を目標に行われる。吸水速度が早いと吸水操作が制御しにくくなることから、'ニシノホシ’の吸水制御は'ニシノチカラ’と同程度、もしくは制御し易いものと考えられた。
 焼酎のアルコール収量を推定するために行った大麦麹の消化性試験の結果を第12表に示した。表中の消化性は水と麹と反応させた際、麹の固形成分が液化したときの増加液量を表わす。また糖化性とは、麹に水を加えて糖化させたとき、増加した糖分を比重から換算した値のことで、糖化性の値が高いと糖化が進んでいることを示す。清酒醸造では、消化性と糖化性を乗じた総合力価が高いと酒粕は少なく、アルコール収量が高いことが知られている。'ニシノホシ’の消化性、糖化性および総合力価は、いずれも'ニシノチカラ’より高く、高アルコール収量が期待できるものと考えられた。」(※10)


3.ニシノホシの生産と買取

上記で引用した記述に「 大麦は小麦より熟期が早く、水稲との作業競合が少ないため、二毛作体系の基幹作物として水田営農上重要な役割を占める。」(※5)とあったように、大麦は主に米との二毛作で栽培されるのだとか。
しかし、「食糧用は大粒大麦として政府に買い上げられ、精麦(精白)された後に焼酎原料、米飯との混用、味噌用等に利用される。」(※11)のに対して「ビール醸造用大麦はビール会社と生産者との間で契約栽培が行われ」(※11)るそうです。
ということは、ニシノホシだけを焼酎用として大量に入手するためには、ビール用大麦と同様に、蔵元が農家とニシノホシの契約栽培を行う必要があるわけです。

そこで、三和酒類さんは地元でニシノホシの契約栽培をし、しかも栽培奨励金を出したり優良農家を表彰したりするなどして、ニシノホシの確保と栽培の普及とに努力なさっているそうです。
このことについて、文献では以下のように紹介されておりました。
 二〇〇〇年九月、ついに地域の二つの農協との間でニシノホシの栽培協定を締結しました。その際、農家には一キロ当たり数十円の栽培奨励金を支払うことを約束しました。流通量が多い小麦に比べて二条大麦の販売単価は低いため、その差額分を穴埋めすることにしたのです。当然、輸入大麦よりもコスト高となりますが、これも産地化に向けた地域貢献の一環と考えました。」(※12)
 さらに、2005年からは「iichiko西の星賞」という制度も導入しました。これは年ごとに一定量以上のニシノホシを生産された方にエントリーしていただき、先の選抜試験や実際の醸造試験の結果から、もっとも品質の良かったニシノホシを生産いただいた生産者の方を表彰するという制度です。「iichiko西の星賞」に選抜された大麦については、単一圃場で取れた原料として特別に焼酎醸造を行い、限定商品を発売しています。この限定商品の発売と同時にニシノホシ/西の星に携わる地元の方々をお招きし、勉強会、懇親会を含めた表彰式を開催しており、生産者から流通の方々のニシノホシに対する生産/販売意識の向上や親睦を深めております。
 これらの生産奨励活動の結果、大分県におけるニシノホシの生産数量は徐々に増加し、2006年度には大分県で栽培される二条大麦の80%(作付面積:農水省作付けデータより)までがニシノホシという状況になりました。(以下略)」(※2)

これだけ優れたニシノホシを使用している焼酎って、今日いただくこの“西の星”以外にあるのでしょうか?
輸入大麦に代わって他の蔵元さんでも広く使用されるようになるためには生産量がまだまだ少ないでしょうから、このニシノホシの栽培が大分のみならず九州全土、そして全国へ広く普及することを切に願う次第です。

また、かつて「貧乏人は、麦を喰え」というような発言をした政治家がいたそうですが、むしろ麦飯食は健康によいそうですね。
もしも焼酎醸造にも適しているだけでなく食べてもおいしい大麦が売れたならば、麦焼酎の生産量が増えるとともに国民の健康も増進し、みんなの心も体も豊かになれるかもしれませんね。





(※1)本山友彦『西太一郎聞書 グッド・スピリッツ 「いいちこ」と歩む』p.191-192(2006.10 西日本新聞社)
(※2)梶原康博『焼酎用大麦の開発(Branch Spirit 九州支部)』p.218(生物工学会誌 91巻4号 2013 日本生物工学会)
(※3)平林千春『奇蹟のブランド「いいちこ」』p.58(2005.6 ダイヤモンド社)
(※4)(※1)p.194
(※5)九州農業試験場 水田利用部 麦育種研究室 塔野岡卓司『多収で精麦品質の優れる二条大麦新品種「ニシノホシ」』p.84(総合農業の新技術 11号 p.84-87 1998.12 農林水産省農業研究センター)
(※6)白石真貴夫・斎藤清男・河津浩二・佐藤吉昭・小川清・大森俊郎・下田雅彦・水江智子・古江国昭『焼酎醸造適性をもった二条大麦'ニシノホシ’の特性』p.1-2(大分県農業技術センター研究報告 29号 p.1-11 1999.3 大分県農業技術センター)
(※7)(※5)p.85
(※8)岩見明彦・今井祥子・梶原康博・高下秀春・岡崎直人・大森俊郎『大分県産二条大麦「ニシノホシ」の焼酎用特性に関する調査』p.824(日本醸造協会誌 100巻11号 p.824-831 2005)
(※9)(※6)p.6
(※10)(※6)p.6-7
(※11)佐々木昭博・塔野岡卓司・土井芳憲・堤忠宏・河田尚之・鶴政夫『二条大麦新品種「ニシノホシ」の育成』p.1(九州農業試験場報告 35号 p.1-18 1999.3 農林水産省九州農業試験場)
(※12)(※1)p.193




2023/12/09
また飲んでみました。

《焼酎》3.いいちこ 25度 200ml ペット【追記あり】 [9944.大分県の焼酎]

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三和酒類株式会社
大分県宇佐市山本2231-1

原材料名 大麦、大麦麹
アルコール分25度
200ml
(以上、ラベルより転記)




あたしゃ酒のうまさを覚えた始まりは、働くようになってから出合った菊正宗をはじめとした灘にある大手蔵の銘酒でした。
一方、焼酎は学生の頃に飲んだことがありましたが、それはまさに酔うためであって、その味はまったく覚えておりません。

今月の初めに熊本県で焼酎を集めて、手元にはその在庫がいくつかございます。
これを一つずつ飲み始めてもよいのですが、その前に、世間で広く飲まれている銘柄をいくつか飲んでおくことで、味のちがいをよりいっそうはっきりと感じ取ることができるのではないかと思いつきました。

そこで今回は、この“いいちこ”を選んでみたわけでございます。
なお、三和酒類さんのお酒は、かつて本醸造 わかぼたん ぼたんカップをいただいております。

ところが、選んだ以上はその素性をあれやこれやと詮索したくなるのが私の悪い癖でして、今回も調べた結果を私の気が済むまで報告させていただきます。




1.大分麦焼酎“いいちこ”

このいいちこは、原材料に大麦を100%使用している“大分麦焼酎”です。
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今日において、「“大分麦焼酎”は、「麦麹を使用した麦100%の本格焼酎」として大分県酒造協同組合所有の地域団体商標として登録されている。」(※1)そうです。
その商標登録がかなったのは、大分県では二十数軒(三十かな?)の蔵元さんたちによって麦焼酎が盛んに製造されているからこそでしょう。

その中でも三和酒類さんが造る“いいちこ”は、今では大分県のみならず、日本の焼酎を代表する銘柄の一つと言っても過言ではないほど広く飲まれておりますね。
ですがその歴史は比較的新しく、発売開始は昭和54年(1979年)2月なのだとか。
登場してからまだ40年経っていないのですね。


大分県では古くから清酒(いわゆる日本酒)が広く飲まれており、一方で焼酎は清酒の搾りかすで造った粕取焼酎が造られていた程度だったそうです。
このことについて、手元にあった雑誌には以下のような記述がありました。
 清酒文化圏といわれる大分県は、清酒製造量が福岡県に次いで多い。清酒造りの歴史は古く、関白秀吉の醍醐の花見の宴にも豊後の麻地酒が出されたという記録が残っている。
 清酒蔵では焼酎も造っていた。酒粕や白糠など清酒造りの副産物を使った焼酎である。なかでも、粕取り焼酎は戦前、福岡県に次ぐ製造量であった。しかし、その後しだいに減少していった。」(※2)

ところが、昭和49年(1974年)に二階堂酒造が麦100%の麦焼酎“二階堂”を発売し、これが大ヒットしたそうです。
このことについて、文献では以下のように紹介されておりました。
 そんなとき同じ大分県の日出町にある二階堂酒造から、麦焼酎が発売され、密かに人気商品となっていた。昭和四九年(一九七四)のことである。それまでも麦焼酎は、長崎県壱岐の特産品として存在していたが、それは米麹を使い、かなり癖のある酒だった。ところが二階堂の麦焼酎は、新たに大麦と麦麹を用い、非常にさっぱりした味わいを有していた。乙類とは思えないすっきりした味と優雅な香りを持っていた。「臭いから香りへの転換」ともいうべきものであった(西の感想)。」(※3)

そして、“いいちこ”の蔵元である三和酒類さんでも、この二階堂に続けとの勢いで麦焼酎の商品化を進めたそうです。
当時の代表者の一人は、このことについて以下のように語っておりました。
 この商品(“二階堂”のこと:ブログ筆者注記)が画期的だったのは、主原料の大麦を糖化するのに必要な「麹」も含め、すべてを大麦で仕上げた一〇〇%麦焼酎という点にありました。
(中略)
 「これが焼酎か」。私も早速飲んでみましたが、従来の焼酎とのあまりの違いに愕然としました。業界の大方の反応も、当初は懐疑的だったような気がします。しかし、酒飲みからも焼酎は「においがきつい」と敬遠されていた時代に、焼酎独特のにおいがなく、酔い醒めもよい「二階堂」は評判を呼びました。
 大分市内の問屋で目にした光景が忘れられません。「二階堂」を満載したトラックが到着すると、まるで砂糖の山に蟻が群がるかのように営業マンが商品に殺到し、われ先に自分の配送用トラックに積み込んでいきます。すさまじい「二階堂人気」を目の当たりにして、頭を殴られたような衝撃を受けました。オール麦焼酎の出現は酔うために飲む労働者の酒といった焼酎のイメージを、味や香りを楽しむ酒へと劇的に変えました。「においから香りへの革命」とでも呼ぶべき出来事でした。
 「うちもあの味と香りを目指そう」。製造担当だった専務の和田昇さんの提案で、三和酒類も麦焼酎の開発に乗り出すことになりました。低迷続きの清酒の将来に事実上、見切りをつけたのです。」(※4)


「二階堂」「いいちこ」の成功は、多くの清酒兼業蔵や焼酎専業蔵が粕取り焼酎や白糠焼酎から麦焼酎製造への転換を進める契機となった。」(※1)そうですが、その後、「 「いいちこ」が生まれた一九七九(昭和五十四)年は、平松守彦氏が大分県知事に就任し、地域おこしの「一村一品運動」を提唱した年に当たります。八〇年代前半は「いいちこ」をはじめ大分の麦焼酎が燎原の火のように全国に広まり、一村一品運動の「優等生」ともてはやされた時代。築地や赤坂の料亭など、中央で盛んに売り込んでくれた平松さんのおかげだと思っています。知事を退任された今でも、平松さんには足を向けて寝られません。まさに「いいちこ」は、一村一品運動の後押しを受けて大きく羽ばたいた大分、宇佐の地域産品なのです。」(※5)という記述にあるとおり、県の後押しもあって、いいちこも他の大分麦焼酎も全国ブランドとして育っていき、今日に至るそうです。

そうして「大分県は全国一の本格焼酎製造量を誇る。(2003年当時:ブログ筆者注記)」(※6)ほどにまで登りつめました。


すなわち、今日における大分麦焼酎の礎は、“二階堂”と“いいちこ”とがわずか40年ほど前に築いたものだったのです。




2.麦麹

麦100%の焼酎ということは、麹も麦でこしらえてあるわけです。
この麦麹を使うことで、米麹を使う焼酎よりも軽快な味わいに仕上がるのだとか。

 従来の麦焼酎は米麹に麦をかけて造っていたのに対し、我々は麦麹に麦をかけることにした。その方が香りが華やかで軽いからです。お米はしっとりとしておいしいけど重い味がする。その点、パンはふんわりとして軽いでしょう。この違いに着目して麦麹を使えば、これまでの常識を覆す新しいタイプの麦焼酎を開発することができるとみたわけです」(熊埜御堂社長)」(※7)

 全麹造りというのは、いわば必然でした。麦だけだと非常に軽くて、やわらかいタイプができるけど、深みがなかなか出ない。そこで、昭和六〇(一九八五)年くらいから、深みを出すために全麹造りを始めました。
 最初は、隠し味のような形で、レギュラーの「いいちこ」の中にブレンドしていたんです。六年ほど前(平成一〇年)に、はじめて全麹造り単独で商品化しました。「いいちこ フラスコボトル」です。」(※8)

しかしその反面、どうやら麦麹には糖化力の弱さクエン酸の生成量の少なさなどといった欠点もあって、その克服と実用化とは簡単ではなかったようです。
それ故に、二階堂やいいちこ以前の麦焼酎は、麹だけは米麹を用いていたのでしょう。

麦麹の欠点を克服した顛末を紹介した記述に当たることはかないませんでしたが、麦麹の性質については、以下のような記述を見つけました。

 麦麹は、米麹に比べて、α-アミラーゼやグルコアミラーゼなど主要な酵素群の活性が約半分と低く、(中略)焼酎麹で重視する出麹酸度も1~2ml少ない。また、突きはぜ・総はぜ麹ではなく塗りはぜ麹になりやすい。これらは焼酎麹として短所と考えられていたが、その後、麦麹はもろみの溶解に対して十分量の酵素量があり、米麹と比べて細胞壁溶解酵素キシラナーゼを多く生産するため麦焼酎もろみの発酵に適していることが明らかにされている。今後、発酵や焼酎原酒の酒質と関連づけて、よりはぜ込みの良い高品質な麦麹を検討する余地はあると思われる。」(※9)

 本格焼酎用の麹である白麹菌は、(中略)この麹は米において活性度が高くなる。でんぷんを糖に変える能力は米麹が最も高い。それだけでなくさまざまな副産物もつくり出す。ただこれを麦に使うと比較的純粋なもろみがつくられる。発酵、蒸留をしたとき、不純物の含有量が少ないということがわかったのだ。しかし香味の素となる高級アルコールやエステル類はかえって多く生み出す。これが麦焼酎独特の風味につながった。麦麹の採用―これが麦焼酎成立の一つの要件である。」(※10)



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【2022年5月4日追記】

その後、麦麹の欠点とその克服方法について書かれた文献に出会うことがかないましたので、ここに追記いたします。

大麦は、表層部にタンパク質や麴菌の増殖を促進するカリウムなどのミネラル成分が多く、麴の増殖に伴う発熱量も多いために水分が蒸発しやすいことから、蒸しあがりの水分を米より高い36~38%程度にするのが一般的です。
 大麦の精麦の程度が低いと、表層部のミネラル分が多いために表層で麴菌が増殖し、内部に麴菌が食い込んでいかないために、酵素の生産量が少なくクエン酸の生成量も少なくなります。その解決のためには、精麦の程度を上げて表層部のミネラル分を減らしてやることが必要になります。(中略)麦を磨けば磨くほど(搗精歩合が低くなるほど)クエン酸の生成量(酸度で示します)は多くなります。また麦麴は、米麴に比べて吸水により膨潤する性質があり、麦麴表層のミネラル分も多いことから、麴の菌糸が伸びで菌糸どうしが互いにからまり、ガチガチに固まるシマリと呼ばれる現象が起きます。その結果、麴層に亀裂が生じやすくなります。
 亀裂が入ると、送風された空気が亀裂部分だけを通過し、麴層に均一に風が通らなくなるため、製麴品温の調節ができなくなります。そのために手入れと呼ばれる撹拌をおこない、シマリをほぐし、均一に風が送り込まれるようにしなければなりません。シマリ始めるころの手入れが効果的です。」(※16)

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3.飲みやすさ

焼酎というと香味、すなわち独特の風味・においを有することがアタリマエだったわけですが、“いいちこ”はそれをも克服したそうです。
上記(※3)の文献では、(※10)の記述に続けて、このことを以下のように紹介しておりました。
 もう一つ麦焼酎の開発上の大きなテーマとなったのは、いかに本格焼酎独特の臭みを減らすかであった。これは蒸留時に嫌な臭いのもととなる不純物を除去することによって実現できる。ここで開発されたのが減圧蒸留という方法だ。
(中略)
 もともと不純物の生成が少ない麦麹を使ったということ、それに加えて減圧蒸留法の開発が臭みの少ない焼酎をもたらした。さらに蒸留した後液化回収される酒成分のなかにまだ残存している不用物質を除去する方法として、物理的な精密ろ過技術も採用された。これがより純粋なアルコールといくつかの揮発物質をバランスよく酒のなかに溶かし込める役割を果たす。しかし本格焼酎の持ち味となっている香味をもたらす成分は逃さない。こうした技術の開発に取り組んできたことが、麦焼酎を限りなく飲みやすい酒としたのである。」(※11)

減圧蒸留は、加熱によって発生する香味物質を生じさせないようにするために、蒸留器内の圧力を下げ沸点を下げて蒸留する方法ですが、これについてはかつてこちらでまとめておりますので、ご参照ください。

また、これは私の予想ですが、上記(※11)で触れられている「物理的な精密ろ過技術」なるものは、おそらくイオン交換樹脂を用いた“イオン交換処理”のことではないかと推察いたします。

イオン交換処理は「原子力発電、電子工業などの洗浄プロセスで、大量の超純水が必要となり、また製薬工業、食品工業での脱塩や濃縮を行なうために、幅広く使われ」(※12)ているろ過技術であって、それを焼酎に転用することで「本格しょうちゅうの中の不快成分が、脱イオンされ、吸着されて、現在のニーズに適合したマイルドな、しょうちゅうができるのです。」(※13)とのこと。
しかし私は、このイオン交換処理のしくみをわかりやすく説明できるだけの科学的知見を持ちあわせておりません。
そこで、まことに申し訳ございませんが、ここではその効果について紹介している文献の記述を引用するに留めておきます。

 アルデヒド類、有機酸類、中沸点脂肪酸エステルを選択的にイオン交換や吸着作用により除去する。
(中略)
ここでのイオン交換処理の効果は、本質的には原酒の持つ香味のマイナス成分を除去することで、相対的に穏やかな芳香や軽快で切れの良い味わいを引き立たせることにある。したがって、良質な麦焼酎原酒の製造を心掛けることが大切である。
 イオン交換処理をした精製酒は、軽く炭素ろ過を行うことで香味を整える。」(※14)

フルフラール(香ばしさや焦げ臭の原因物質:ブログ筆者注記)は、大麦焼酎仕込中に麹菌の加水分解酵素によって遊離されたキシロースが、醪中の有機酸による低pH条件と蒸留時の加熱を受けて生成され、蒸留とともに製品に移行するので、低温で蒸留される減圧蒸留酒では含有量が低い。また、イオン交換処理や活性炭処理で除去されるので、ソフトタイプの製品では少なくなる傾向がある。」(※15)


いいちこに関しては、これら以外にも酒銘を公募で決めたことや販促や宣伝に関する話、あるいは原料の調達先や糖類の添加を止めた経緯などが面白いと思ったのですが、これらをすべてここで紹介するとかなり冗長になってしまいそうですのでやめておきます。
もうすでに冗長だよ!





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それでは、麦100%に減圧蒸留、そして精密なろ過技術を用いて製造されたこの麦焼酎をいただいてみたいと思います。


まずは、生(き)、すなわちストレートで。
5524.JPG

アルコールの香りはありますが、それほど気にはなりませんね。
焼酎らしい香るような風味はありますが、かなり弱めです。
そのかなり弱めの風味ですが、弱い中に香ばしさがあって、しかも角がなくて穏やかです。
上記(※7)にあったように、パンのようなふんわりとした香ばしさをかすかにほんのりと感じます。
その風味が香るとともに、舌の上にもちょっと乗ってくるようです。
また、減圧蒸留&ろ過の成果でしょうか、焦げ臭さや雑味はまったくありませんね。
それにピリピリ感もありません。
後味もすっきりしています。


次に、焼酎6:お湯4のお湯割りにしてみました。
5525.JPG

生(き)よりもさらにまろやかです。
それでいて風味は薄くはならず、しっかり残っています。
かすかな香ばしさを感じとることができますよ。
それにお湯割りにしたことで、かなり軽くなりましたね。
生(き)も軽めでしたが、こっちのほうがよりいっそう軽くなりました。
さらに、生(き)ではわからなかったものの、お湯割りにすることでレモンを薄めた酸味のような風味をほんのりと感じることができましたよ。


最後は、残ったものをロックでいただきます。
5526.JPG

香ばしさは、これが一番よくわかるようです。
それに、フルーティーな風味もかすかに出てきたみたいです。
でも、角をちょっと感じるようになりましたが、淡いので気にはなりません。
お湯割りで感じた酸味のような風味は、ロックでも出てくるみたいです。
キリッとしていて、おいしくいただくことができました。


いいちこは、風味がさわやかですっきりしているのに、じっくり味わうと味わい深さを感じ取ることができるおいしい焼酎でした。

風味が淡いので、甲類焼酎(連続式蒸留の焼酎)に近いかもしれません。
それ故に、果汁や炭酸、フレーバーで割って飲んでもおいしくいただけると思いました。

でも、かすかに感じる穏やかでふんわりとした香ばしさや、お湯割りやロックで感じた酸味のような風味をじっくりと感じ取ることも、また楽しいところでした。
これは私の感想ですが、この繊細な味わいは、京料理のような食材の味を活かした薄味の料理に合うのではないでしょうか。

また、焼酎は鼻腔の辺りに後味が残ることがあるようですが、このいいちこでは酸味のような風味がかすかに残る程度で、それもまたさわやかでした。



大分麦焼酎を代表するいいちこ、堪能させていただきました。

冒頭の(※2)で紹介したとおり、大分県では麦焼酎だけでなく、清酒の製造もしっかり根付いているようですね。
ということは、大分で酒集めをすれば、カップ焼酎とともにカップ酒もGETできちゃったりするのかもしれませんね。

こりゃぜひとも、大分県で酒集め&焼酎集めをしてみたくなってきましたよ!





(※1)岡崎直人・下田雅彦『麦焼酎の技術史』p.537(日本醸造協会誌 103巻7号 p.532-541 2008.7)
(※2)金羊社発行『焼酎楽園 Vol.6』p.6〔『特集 豊の国で見つけた新しい風 大分の地焼酎』( p.2-11)内〕(2001年11月 星雲社)
(※3)平林千春『奇蹟のブランド「いいちこ」』p.11(2005.6 ダイヤモンド社)
(※4)本山友彦『西太一郎聞書 グッド・スピリッツ 「いいちこ」と歩む』p.90-92(2006.10 西日本新聞社)
(※5)(※4)p.140-141
(※6)金羊社発行『焼酎楽園 Vol.15』p.5〔『【特集】旅行けば焼酎 まるごと「豊の国」大分県』( p.4-17)内〕(2004年11月 星雲社)
(※7)『総論 三和酒類『いいちこ』--麦焼酎の常識を覆しトップに立つ』p.11-12(戦略経営者 16巻9号 p.10-13 2001.9 TKC)
(※8)(※6)p.40〔『三和酒類・熊埜御堂社長が語る「いいちこ」の味』( p.40-41)内〕
(※9)下田雅彦『麦焼酎』p.368(日本醸造協会誌 94巻5号 p.365-371 1999.5)
(※10)(※3)p.67
(※11)(※3)p.67-68
(※12)中西志郎『7 本格焼酎のイオン交換処理について』(第26回社団法人日本醸友会シンポジウム -酒造業の今後の方向をさぐる-2-)p.93(醸造論文集40号 日本醸友会 1985)
(※13)(※12)p.97
(※14)(※9)p.370
(※15)(※1)p.538
(※16)鮫島吉廣・髙峯和則『焼酎の科学 発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技』p.108-110(2022.1. 講談社ブルーバックス B-2191)
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